2013年5月25日土曜日

クレッチマン州首相を迎えてのシンポジウム「日独におけるエネルギーシフト-地域社会と市民の役割」~第1部

去る5月23、24日に行われたクレッチマン州首相を迎えてのシンポジウム「日独におけるエネルギーシフト-地域社会と市民の役割」に関する備忘録です。
長いので3部構成(予定)にしようと思います。
今日は23日のバーテン・ヴュルテンベルク州ヴィンフリート・クレッチマン州首相の講演についてまとめておきます。
例によって赤いところだけ読めばいいようにしておこうと思います。

ひとことでいうと、ドイツもここまでエネルギーシフトを進めるのにチェルノブイリから25年以上かかったんだ、ということです。
日本は福島での事故を経験してからまだ2年です。
だいぶ人々の意識は変わっていると思いますが、本格的なエネルギーシフトにはまだまだ時間がかかるのではないかと感じました。
タイトルにもある通り、クレッチマン氏や後で話をされたバウアー氏も、エネルギーシフトのために市民が果たす役割を再三強調していました。

以下講演の内容です。



●クレッチマン氏より講演

・日独とも製造業=輸出産業中心の経済でこれを原子力発電抜きでどうデザインしていくかという課題に直面している

・ドイツでも80年代半ばまでに19基の原子力発電所が設置された
・1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故によってドイツも相当な影響を受け、原子力発電所の安全性に疑問符がつき、いかに撤退するかについて議論されるようになった
・2000年に2023年までに原子力発電所を全て廃止することを決定、2005年には最初の2基が停止、しかし2010年には稼働中の原子力発電所の稼働期間を延長する決定
・2011年3月11日の福島第一原発事故を受けて原子力発電を推進してきたメルケル首相も方針転換、2022年の3月までに全ての原子力発電所を停止させる決定
・原子力発電からの脱却、再生可能エネルギーへの転換も含めたエネルギーシフトの目標:2050年までに電力供給の80%、総エネルギー需要の50%を再生可能エネルギーでまかない、CO2を80%削減する(緑の党ではより野心的な目標を掲げている)

・ドイツの電力供給の現況について(原子力16%、水力含む再生可能エネルギー21%、2011年←数字は電事連のHPで確認しました)
・エネルギー供給の安定性、環境への配慮、経済性のバランスをいかにとるかが重要

・脱原発に向けては、現在原子力発電所が立地している地域の経済転換、失われる雇用への対応が必要
・原子力発電所が停止したバイエルンでは新たに洋上風力発電所を設置、雇用を創出している
・何十万年も環境に影響を及ぼし続ける放射性廃棄物については処分や保管のルール作りに市民が参加し、市民や政界の広範な支持のもとに行うべき
・バーテン・ヴュルテンベルク州では原子力発電が州内の電力供給の50%を占めており、脱原子力と再生可能エネルギーへの転換は表裏一体

・ドイツの再生可能エネルギー普及政策には20年来の歴史があり、大きく3つの段階に分けられる
・第1段階:1991年に保守政権が電力買取法を制定し、小水力発電や風力発電に対して補助をはじめる
・第2段階:2000年に再生可能エネルギー法が成立、再生可能エネルギー由来の電力を固定価格で買い取りを電力網事業者に義務づけ投資の安定性を保証、買取価格は年を経るごとに低減、また再生可能エネルギーが既存の発電方式に対して優先することも明文化
・第3段階(現在~):再生可能エネルギーをエネルギー供給の核とする、エネルギー供給の安定性を損なわないため柔軟な運用が可能なガス火力発電所を移行期に活用、競争力を損なわないように転換に必要なコストをどう配分するか、省エネルギーも重要な要素、蓄電やバイオガスの技術開発や活用も進めたい

・1998年にすでに発電事業者と送電事業者の分離が行われている
・固定価格買取制度によって火力、原子力発電が独占していた電力市場に太陽光発電や風力発電が参入
・ドイツは日本ほど太陽光発電も風力発電も好条件ではないが、20年前と比較して設備容量は40倍になり、コストの低減や発電効率の向上、設備に対する信頼性も向上した

・将来も持続可能な経済成長のため、自然を過剰利用しない社会に移行していくべき
・技術力のある日独で、気候変動防止策によって経済成長も達成できるということを世界に示したい
・1次エネルギーを可能な限り有効に活用するためコージェネレーションにも力を入れたい
・建物の断熱も省エネルギーのために重要な役割を担うべきもの

・再生可能エネルギー法は市民がエネルギー問題に参加する大きな契機に
・市民の7割が再生可能エネルギーを支持しており、ドイツは市民参加型のエネルギーシフトに向けての基盤づくりに成功したといえる
・資産運用のあり方として株式への投資よりも再生可能エネルギーへの投資が選ばれるように
・共同組合によって再生可能エネルギー発電設備を運営することで、市民がエネルギーの消費者から生産者にまわるように
・再生可能エネルギーへの投資のうち半分以上が市民によって行われている

・再生可能エネルギーを有効に活用するため、電力網を整備し双方向性を持たせる必要
・スマートグリッドからエネルギーインターネットへ

・市民が様々な政策決定に関わるようにすることも重要
・州の戦略草案はWebで公開されて市民からの意見を取りいれて作成された
・ヨーロッパ最大の揚水発電所建設にも市民参加
・市民参加によって全ての問題が解決するわけではないが乗り越えられる課題も多い

・エネルギーシフトにかかるコストをコストと捉えるのではなく投資、雇用を生むものと捉える
・化石燃料は輸入に依存しているのでかかるコストは海外に流出してしまう
・再生可能エネルギーはエネルギー輸入に代わるものであり、かかるコストも国内に還流する
・ドイツの再生可能エネルギー産業は38万人の雇用を創出している(=ドイツ国内の自動車関連産業の半数に相当)

・"Green Industrial Revolution"「緑の産業革命」
・環境分野の成長率は5~8%
・機械産業における省エネルギー、省資源型の生産ラインへの投資
・日本の横浜市、豊田市といったスマートシティへの取り組みにも注目している
・日本は地熱発電についても大きなポテンシャルを持っているのでぜひ有効活用してほしい

・すでにドイツは2012年までに1990年比で21%CO2を削減する、という京都議定書の目標を達成した
・脱原発はエコロジーだけでなくエコノミーでも成功している
・今後も市民に近い分散型エネルギーへのシフトを実証してゆく

・2013年12月に発表される日本のエネルギー戦略にも注目している



パネルディスカッションに続きます。

0 件のコメント:

コメントを投稿