2013年7月8日月曜日

シンポジウム「日本のエネルギー・環境政策選択」Vol.2

シンポジウム「日本のエネルギー・環境政策選択Vol.1」の続きです。
主要なメッセージはVol.1にまとめましたのでご覧いただければ幸いです。
今日は2本目の朴先生の講演についてまとめてみます。

なお、以下の内容はいずれもわたしが講演を受けて考察・編集したものであり、講演者のみなさまの見解に代わるものではないことをあらかじめお断りしておきます。 
要は講演の内容とわたしの考えがわりと入り乱れているということです。
学術論文とかではないのでそのあたりどうかご容赦ください。



講演2:朴勝俊(パク・スンジュン)准教授(関西学院大学総合政策学部)
「日本の2030年電源選択と再生可能エネルギー発電の環境・経済効果」

2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故を契機として、日本国内で「脱原発依存」を望む世論が高まりを見せた。
一方で政府のコスト等検証委員会報告書における発電単価比較(資料3, p.62・図36に発電方式ごとの単価比較)では原子力発電による発電コストが他の発電方式と比べてそれほど安くないこと、また再生可能エネルギーの中には陸上風力のようにコスト面で他の発電方式と十分に競争可能なものもあることが示されました。

民主党政権は原子力発電による電力の比率として2030年に25%, 10%, 0%とする「3つの選択肢」を提示し世論調査を行なっています(2012年7月~8月)。
ここでは原子力発電による電力を0%とする、という意見が優勢でした。
それを受けて革新的エネルギー・環境戦略(2012年9月14日)には「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」と明記されました。
しかしこの点については閣議決定には至らず、その後民主党政権から自民党政権に代わってしまったため事実上白紙撤回された格好です。

新聞各紙ではこのとき「原発ゼロなら電気代は2倍(2万円/月)」という報道が多く見られましたが、これはかなり世論誘導的でした。
というのもエネルギー・環境に関する選択肢(2012年6月29日)(p.14)で4つの研究主体が3つの選択肢について2030年の電気代を試算していますが、いずれも電気代は原発比率に関わらず上昇し、かつ異なる原発比率について比較しても電気代にほぼ差がないという結果を得ているからです。

従って、ここであえてわたし自身の問題の理解を述べておけば、問題は「脱原発と再生可能エネルギーによる電気代上昇」と「原発維持による安い電気代の享受」との二項対立ではなく、電気代の上昇分を「原子力発電のリスクと海外からの化石燃料の輸入に支払う」のか「再生可能エネルギーや電力網の改善などエネルギーシステムの改善に支払う」のか、という設定に整理できると思われます。
もちろん問題は白と黒との世界ではなく、短期的には電力需要を満たすために化石燃料の輸入はどうしても必要にはなります。
そして同じく短期的には化石燃料の代替として原子力発電を利用することも選択肢のひとつではありうるでしょう。

さて、ここから進みましょう。
朴先生と講演1の李先生、そして京都大学の植田先生がCambridge EconometricsのHector Pollitt先生の協力を得てとE3MGモデルを使って民主党の「3つ選択肢」を相互比較しました。
ここでは「3つの選択肢」に従って2030年の電源構成を設定し、それを実現するためにどれだけの投資が必要か、またその投資によってマクロ経済や環境にどのような影響があるかを分析しています。

直感的に予想できる通り、必要な投資は0%シナリオ>10%シナリオ>25%シナリオとなります。
マクロ経済を観察すると実質GDPについては10%シナリオ>0%シナリオ>25%シナリオ、雇用については0%シナリオ>10%シナリオ>25%シナリオ、との結果となり、原子力発電の電源比25%が最も経済にマイナスであることがわかります。
一方で二酸化炭素排出量は0%シナリオ>10%シナリオ>25%シナリオという結果になっており、単純な脱原発は二酸化炭素排出量を増加させてしまうことがわかります。

そこで次に非電力部門にのみ炭素税を課し、二酸化炭素の排出削減も同時に行おうとするシナリオの分析が行われました。
ここでは1990年比10%削減、15%削減、25%削減がそれぞれ「3つの選択肢」ごとに分析され、計9通りのシナリオが追加で分析の俎上にあがっています。
ここから得られた示唆は二酸化炭素の排出削減量が増えれば炭素税をより高率にする必要があり、それに伴って物価の上昇が起こるが、二重の配当が発生するように制度設計することで実質GDPや雇用には正の影響を生じさせることができるというものです。

ここで注意したいのは、シナリオの違いによって生じる種々の経済指標(実質GDP、雇用、消費、投資、輸出入、物価水準)の差は、ほとんどが±1%の範囲内に収まっているということです。
実質GDPについていえば±1%程度の変動は2000年代に入って日本は何度も経験しています。
2008年のリーマン・ショックがあった際はさすがに1%の落ち込みでは済みませんでしたが、それ以外でも1%程度の下落はありました。
それが実生活にどれほど影響してきたか、というとそれほど大きく影響しなかったといっても完全に的外れではないと思います。
もちろん電気代の上昇についてはこれまでの経験以上のものになるわけですが、一方で税収中立的な炭素税を設定し、所得税の減税を行うといった対策をとれば家計への影響は最小限で済みます。

したがって原発ゼロが経済に深刻なダメージを与えることはない、というのがこの講演の結論でした。

余談ですが朴先生はプレゼンテーションも非常に上手かったです。
パワーポイントの作りこみも話し方も、そしてオチのつけかたも(!)たいへん参考になりました。
今日はここまでにしておきます。
明日はCambridge Econometricsからのゲスト講演者、Unnada Chewpreech先生の"The EU Energy Policy and its macroeconomic Impacts on the EU economies"です。

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