2013年7月9日火曜日

シンポジウム「日本のエネルギー・環境政策選択」Vol.3

シンポジウム「日本のエネルギー・環境政策選択」Vol.1
シンポジウム「日本のエネルギー・環境政策選択」Vol.2
……の続きです。

主要なメッセージはVol.1にあり、そのメッセージのもととなった分析はどちらかといえばVol.2に含まれています。
今回はCambridge EconometricsのUnnada Chewpreecha先生による講演について振り返ります。
直接日本の政策分析に関わる内容ではなく、EUのエネルギー政策やE3MGモデル(Vol.1, Vol.2参照)の解説、モデルがこれまでEUの政策決定にどう関わってきたかについての講演です。

なお、しつこいようですが、以下の内容はいずれもわたしが講演を受けて考察・編集したものであり、講演者のみなさまの見解に代わるものではないことをあらかじめお断りしておきます。
要は講演の内容とわたしの考えがわりと入り乱れているということです。
学術論文とかではないのでそのあたりどうかご容赦ください。




最初に、この講演は欧州委員会やその他の組織の見解を代表するものでは必ずしもありません。

この講演は3つのパートに分けられます。
第1部ではEUのエネルギー気候政策を概観します。
第2部はE3MGモデルおよびE3MEモデルについての解説と、これらのモデルがエネルギー環境政策のマクロ経済的な影響を算出するにあたってどのように利用されているのかの説明にあてられています。
第3部ではモデルから得られたマクロ経済的な結果について主要な点が示されました。


第1部:EUのエネルギー気候政策

欧州委員会はエネルギーと気候変動について以下の項目を2020年までに達成する目標として掲げています。

 ・1990年比温室効果ガス20%削減
 ・2005年比エネルギー効率20%向上
 ・エネルギーミックスにおける再生可能エネルギー比率20%

上記はEU 20-20ターゲットと呼ばれています。
EU 20-20ターゲットを達成するために導入された政策手段には次のようなものがあります。

 ・EU域内排出権取引制度(EU-ETS)
 ・ETSに参加していない部門に関する意思決定を共通化する努力(ETSに参加していない部門については各EU加盟国ごとに目標が設定されている)
 ・各EU加盟国ごとの個別の再生可能エネルギーの導入目標
 ・環境的に安全な炭素の回収と貯蔵(CCS)技術の利用に関するEU横断的な法的枠組みを構築

EUのエネルギー気候政策は主に2つのタイプに分けられます。
ひとつは(EU-ETSのように)市場メカニズムを利用した手段であり、もうひとつは(製品認証に代表される)直接規制です。

EU 20-20ターゲットは3つの目標がお互いに密接に絡み合っているので、それぞれを単独で捉えようとすると問題がかえって複雑化してしまいます。
そのため個別に目標を扱うよりもEU 20-20ターゲットをひとまとまりとして扱うべきです。

エネルギーや気候変動対策の目標や、それに付随する政策が、雇用や研究開発といった他の目標にどのような影響をあたえるかにも注意する必要があります。
これは政策それぞれが互いに矛盾しないようにするためです。

またEUはすでに2020年以降のエネルギー気候政策策定の準備をしています。
地球の平均気温の上昇を2℃までに抑える長期の気候目標を実現するための、 2030年に向けたフレームワークと2050年へのロードマップがすでに作成されています。

第2部:E3MEおよびE3MGを用いたマクロ経済的影響の評価

講演の第2部では世界およびヨーロッパに関するエネルギー-環境-経済モデル、E3MGモデルとE3MEモデルがエネルギー気候政策のマクロ経済的な影響を算出するためにどのように用いられているのかについて説明されます。
これらのモデルはヨーロッパの公式な政策影響評価において頻繁に利用されてきました。

E3MEモデルおよびE3MGモデルは要素間の関係が過去のデータから導出される計量経済モデルとなっています。
モデルは経済、エネルギー、環境について部門ごとに詳細に構築されています。
それぞれの部門から別の部門へとから双方向のフィードバックが行われるような構造になっています。
またE3MGではEUの国々を中心に世界全体がモデル化されていて、日本は独立した地域のひとつとして扱われています。
モデルは高い評価を受けており、これまでに以下のようなエネルギー気候政策の評価に利用されてきました。

・ETSにおける排出権の異なる配分方法がそれぞれ有する経済的な影響の評価
・異なるエネルギー課税制度についてヨーロッパへの経済的、環境的影響をモデル化
・異なる環境税制改革についてヨーロッパに与える経済的、環境的影響を評価
・エネルギー需要を減少させるために提案された政策手段について定量的な評価を行うことでエネルギー効率化指令の元となる情報を提供
・2020年までに温室効果ガスを30%削減するという目標の変更に関する経済的影響を評価し、欧州委員会気候変動総局の目標変更に関する情報発信の材料を提供
・EUエネルギー気候政策の労働市場への影響をモデル化
・EUの硫黄酸化物や窒素酸化物に関する排出権取引制度の導入に伴う影響を評価
・食物、飼料、木材、金属、鉱物といった物的資源を扱うE3MEの物的資源サブモデルを通じてEUの資源利用効率化に関する政策をモデル化
・EUの気候政策の結果としてEUの産業部門から逃避した炭素の量を計測
・REDDと世界炭素市場との間の相互の汚染逃避について評価

第3部:E3MEモデルによって得られた主要な結果

以下に示す結果はケンブリッジ・エコノメトリクスが欧州委員会雇用総局の依頼を受けて2011年に発表した”Studies on Sustainability Issues – Green Jobs; Trade and Labour”に基づいています。
ここではEUの2020年に向けたエネルギー気候政策のマクロ経済的な影響や労働市場への影響を推定するためにE3MEモデルが使われました。

ここではEU 20-20ターゲットを達成するための様々なシナリオについて分析されています。
例えばどのように目標を達成するか(市場メカニズムによる手段か、直接規制か、あるいは両方か)や異なる水準のエネルギーや気候に関する目標が対象となっています。
市場メカニズムに基づく排出削減政策から得られた税収についての異なる税収還元手段を用いた場合の影響を調べるために追加的な感度分析も行われています。

分析の結果よるとEU 20-20-20ターゲットはGDPに対して正の影響を与えるようです。
その理由は再生可能エネルギーやエネルギー効率的な技術への投資にあります。
またこの結果は直接規制や市場メカニズムに基づく手段にかかるコストも織り込んだものとなっています。

炭素税のように市場メカニズムに基づく政策については、EU政府の炭素税収がそれぞれの国について所得税を減税するために使われるものと想定して分析されています。
これによってエネルギー気候政策が経済に対して持つ負の影響を取り除くことができるというわけです。
部門ごとの結果からは、土木や建築のように投資がより多く発生する部門がエネルギー気候政策から利益を得ていることがわかりました。

また感度分析の結果からは市場メカニズムに基づく政策手段によって得られた税収を全てEU経済に投資し還元すればGDPや雇用に対してよりよい影響が生まれることも明らかになっています。

E3MEモデルやE3MGモデルによる分析はより広範な政策影響分析の一部を構成するものであり、以下のような他の分析手法を補完するために使われるべきであることに注意する必要があります。

 ・他のモデル(一般均衡モデル、CGE)
 ・定量分析(費用便益分析、産業連関分析など)
 ・質的研究、文献調査
 ・特定の部門に関する研究
 ・聞き取り調査や協議

エネルギー気候政策の影響を評価する際は上記全ての分析について考慮する必要があるということです。


……ここまで読んでVol.1, Vol.2と何かが違うと気づいた方がいらっしゃるかもしれません。
実はこれは事前にいただいた要約を自分が報告用に翻訳したものを少し編集したものです。
そのため前の2つの講演に比べて中身が詳細になっています。

明日はパネルディスカッションの模様を簡単に振り返ってまとめようと思います。

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